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 労働者に発症した上肢の障害(上肢障害)が、業務災害として認められるかどうかの判断基準として「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準」 があります。

  ここでは、認定基準の概要についてまとめています。

 

 

1. 上肢障害とは

 

 腕や手を過度に使用することで、首から肩、腕、手、指にかけて炎症を起こしたり、関節や腱に異常をきたした状態を指します。

 

 上肢障害の代表的な診断名には、次のようなものが挙げられます。 

 

 ・上腕骨外(内)上顆炎 

 ・肘部管症候群

 ・回外(内)筋症候群

 ・手関節炎

 ・腱鞘炎

 手根管症候群

 書痙 

 

 

2. 上肢障害の労災認定の要件

 

 上肢障害が業務災害として労災認定されるためには、次の3つすべてを満たす必要があります。

 

(1)上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した後に発症したものであること。

  

(2)発症前に過重な業務に就労したこと。

 

(3)過重な業務への就労と発症までの経過が医学上妥当なものと認められること。 

 

 

3.  用語の意味・解説

 

(1)「上肢等」

 

 上肢等とは、後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕、手、指をいいます。

 

 

(2)「上肢等に負担のかかる作業」

 

  上肢等に負担のかかる作業には、主に次のようなものが該当します。下記に類似した作業も該当することがあります。

 

①上肢の反復動作の多い作業

 ・パソコンなどでキーボード入力をする作業

 ・運搬・積み込み・積み卸し、冷凍魚の切断や解体

 ・製造業における機器などの組立て・仕上げ作業

   ・調理作業、手作り製パン、製菓作業、ミシン縫製、アイロンがけ、手話通訳

 

②上肢を上げた状態で行う作業

 ・天井など上方を対象とする作業

 ・流れ作業による塗装、溶接作業

 

③頸部、肩の動きが少なく姿勢が拘束される作業

 ・顕微鏡やルーペを使った検査作業

 

④上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業

 ・保育・看護・介護作業

 

 

(3)「相当期間従事した」 

 

 原則として6か月程度以上従事し、発症直前3か月間に上肢等に負担のかかる作業を次のような状況で行った場合をいいます。

 

①業務量がほぼ一定している場合  

 同種の労働者(同様の作業に従事する同性で年齢が同程度の労働者)よりも10%以上業務量が多い日が3か月程度続いた

 

②業務量にばらつきがあるような場合

a. 1日の業務量が通常より20%以上多い日が、1か月に10日程度あり、それが3か月程度続いた(1か月間の業務量の総量が通常と同じでもよい)

 

b. 1日の労働時間の3分の1程度の時間に行う業務量が通常より 20%以上多い日が、1か月に10日程度あり、それが3か月程度続いた(1日の平均では通常と同じでもよい)

 

 

(4)「過重な業務に就労した」

 

 過重な業務に就労したか否かを判断するに当たっては、業務量だけでなく、次の状況も考慮されます。

 ・長時間作業、連続作業 

 ・過度の緊張 

 ・他律的かつ過度な作業ペース 

 ・不適切な作業環境 

 ・過大な重量負荷、力の発揮

 

 

4. まとめ

 

 上肢障害として労災認定されるには、上肢等に負担のかかる作業に原則6ヶ月以上従事し、発症前3ヶ月間には過重な業務に就労したことが要件とされています。

 腱鞘炎や手根管症候群などの上肢障害は、業務で起こることがありますので、上記1に記載の診断がなされ治療が必要なときは労災申請をご検討ください。

 

(令和6年3月1日更新)

 

 

 

【関連ページ】

◇労災保険制度の基礎知識

◇労災保険と自賠責保険の後遺障害等級の違い

◇労災保険の後遺障害認定のポイント

◇労災保険の症状固定までの期間と障害認定

 

 労働者に発症した腰痛が業務災害と認められるかどうかの判断基準として、「業務上腰痛の認定基準」があります。

 ここでは、認定基準の概要についてまとめています。

 

 認定基準では、発症した腰痛が災害性の原因によるか否かに分けて、下記のとおり認定要件を定めています。

 

1.災害性の原因による腰痛

 災害性の原因による腰痛と認められるには、次の(1)と(2)の両方を満たす必要があります。

 

(1)腰の負傷またはその負傷の原因となった急な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること

(2)腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること

 

【例】

・重量物の運搬作業中に転倒した場合

・重量物を2人で担いで運搬する最中に そのうちの 1人が滑って肩から荷をはずした場合

・持ち上げる重量物が予想に反して、重かったり、逆に軽かったりする場合

・不適当な姿勢で重量物を持ち上げた場合 

 

 なお、 いわゆる「ぎっくり腰 」(病名は 「急性腰痛症」など)は、日常的な動作の中で生じるため、原則として仕事中に発症しても労災補償の対象とされていません。

 ただし、発症時の動作や姿勢の異常性などから、腰への強い力の作用があった場合には業務上と認られることがあります。

 

2. 災害性の原因によらない腰痛

 災害性の原因によらない腰痛と認められるには、重量物を取り扱う業務など、日々の業務で腰部への負荷が徐々に作用して発症したもので、作業の状態や作業期間などからみて、業務が原因で発症したと認められる必要があります。

 腰痛の発症原因により、次の(1)と(2)に区分して判断されます。

(1)筋肉等の疲労を原因とした腰痛

 次のような業務に比較的短期間 (約3カ月以上)従事したことによる筋肉等の疲労を原因として発症したものであること

 

a. 約20kg以上の重量物または重量の異なる物品を繰り返し中腰の姿勢で取り扱う業務

 【例】港湾荷役など

b. 長時間立ち上がることができず、 同一の姿勢を持続して行う業務 

 【例】長距離トラックの運転業務など

c. 毎日数時間程度、腰にとって極めて不自然な姿勢を保持して行う業務

 【例】配電工 (柱上作業)など

d. 腰に著しく大きな振動を受ける作業を継続して行う業務 

 【例】車両系建設用機械の運転業務など

 

(2)骨の変化を原因とした腰痛

 次のような重量物を取り扱う業務に相当長期間(約10年以上)にわたり継続して従事したことによる骨の変化(通常の加齢による骨の変化の程度を明らかに超える場合)を原因として発症したものであること

a. 約30kg以上の重量物を、労働時間の3分の1程度以上に及んで取り扱う業務

b. 約20kg以上の重量物を、労働時間の半分程度以上に及んで取り扱う業務

 

 腰痛は加齢による骨の変化によって発症することが多いため、骨の変化を原因とした腰痛が労災補償の対象と認められるには、その変化が 「通常の加齢による骨の変化の程度を明らかに超える場合」に限られています。

 上記(1)に示す業務に約10年以上従事した後に、骨の変化を原因とする腰痛が生じた場合も労災補償の対象とされています。

 

 

3. 労災補償の対象となる治療の範囲

 腰椎椎間板ヘルニアなどの既往症または基礎疾患が、業務後に再発したり、重症化したりした場合、労災補償で認められる治療の範囲が問題となり得ます。

 症状の再発や重症化が業務によると認められた場合には、その前の状態に回復させるための治療に限り、労災補償の対象とされています。

 

4. まとめ

 業務中の交通事故で生じた腰痛は、突発的な出来事による急な力の作用で生じたものですので、災害性の原因による腰痛として労災認定されるのが一般的です。

 事故以外でも腰痛が生じやすい業務がありますので、仕事に支障が出るほどの腰痛が生じたような場合は労災申請をご検討ください。

(令和5年1月29日更新)

 

 

【関連ページ】

◇労災保険制度の基礎知識

◇労災保険と自賠責保険の後遺障害等級の違い

◇労災保険の後遺障害認定のポイント

◇労災保険の症状固定までの期間と障害認定

 

 労働災害で障害(補償)給付の請求を行った後に、通常ですと労働基準監督署(労基署)から「障害の状態に関する申立書」という書類が送られてきます。

 この申立書への回答内容も、労災の障害認定において重要な資料とされています。ここでは、「障害の状態に関する申立書」の内容と留意点についてまとめています。

 

1.災害発生状況

 災害発生(負傷)年月日を記入するところがありますので、記入をします。

 以前提出した給付請求書の災害発生状況の記載内容に違いがあるときには記入をします。 

 ただ、多くの場合、記載内容に違いがあることはないものと思います。

 

2.  負傷した部位

 身体のどの部分を負傷したかの質問があります。負傷した箇所が多いときは特に、漏れなく記載することが大切になります。

 

3.  障害の内容

 どのような障害が残ったかの質問があります。上記2に記載した部位ごとに症状を記載すると良いかと思います。

 

4.  痛みの有無

 痛みの有無に関する質問があります。現在痛みがあるときには、下記の2つの質問に回答する必要があります。

 ①どの部分がどのように痛むか。(チクチク痛む、ズキズキ痛むなど)

 ②どのようなときに痛むか。(いつも痛む、冷えると痛む、さわると痛いなど)

 

5.  しびれの有無

 痛みのほかにしびれの有無に関する質問があります。

 

6.  感覚障害の有無 

 感覚がなかったり、感覚がおかしいことがあるかの質問があります。

 

7.  日常生活での不自由 

 日常生活で不自由を感じていることに関する質問があります。漏れなく、出来るだけ具体的に記載することが大切になります。

 

8.  既存障害の有無 

 今回の負傷以前にケガや病気をして、そのときの障害(既存障害)が残っているか質問があります。

 既存障害があるときは、次の①~④に回答する必要があります。

 ①いつどのようにして、どこを負したか。

 ②どの部分にどのような障害が残っているか。

 ③残った障害について、労災の給付があったか。

 ④労災の給付を受けた場合は、障害等級、給付金の受領日、給付時の労働保険番号

 

9.  留意点 

 「障害の状態に関する申立書」への回答内容も、労災の障害認定において重要な資料とされています。漏れなく、出来るだけ具体的に記載することが適切な認定につながると思われます。

(令和51222日作成)

 

 

 

【参考ホームページ】

◇労災書式(厚生労働省)

【関連ページ】

◇労災保険制度の基礎知識

 

 労災保険では、一定の要件のもとで医療機関への通院費が支給されることがあります。

 ここでは、その支給要件や請求方法等をまとめています。

 

1. 労災保険の支給対象となる通院

(1)原則

 住居地または勤務地から、原則、片道2キロ以上の通院で、次の①から④のいずれかに該当するものが支給対象とされています。

①同一市町村内の適切な医療機関へ通院したとき

②同一市町村内に適切な医療機関がないため、隣接する市町村内の医療機関へ通院したとき

③同一市町村内に適切な医療機関があっても、隣接する市町村内の医療機関の方が通院しやすいとき

④同一市町村及び隣接する市町村内に適切な医療機関がないため、それらの市町村を超えた最寄りの医療機関へ通院したとき

(2)例外

 例外的に、住居地または勤務地から片道2キロ未満の通院であっても、傷病の状態から、交通機関を利用しなければ診療に適した医療機関へ通院することが著しく困難であると認められるときは、支給対象とされています。

 

2. 請求方法

 通院費の請求では、「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書」(様式第7号)又は療養給付たる療養の費用請求書」(様式第16号の5)を使用します。

 ご通院先の指定医療機関にこの請求書を持参し、移送費に係る療養の内容及び傷病の状態等を「医師又は歯科医師等の証明欄」に記載(証明)してもらうことが必要になります。

 請求先は、被災労働者の勤務先を管轄する労働基準監督署長になります。

 (令和6年3月1日更新)

 

【参考ホームページ】

◇労災書式(厚生労働省)

【関連ページ】

◇労災保険制度の基礎知識

療養(補償)等給付の基礎知識

 

 労災事故(業務災害複数業務要因災害、もしくは通勤災害)で労働者が死亡したときに、遺族等に葬祭料等が支給されます。

 ここでは、葬祭料等の給付と手続きについてまとめています。

 

1. 葬祭料−業務災害の場合−

(1)給付内容

 315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額になります。この額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分が支給額となります。

 

(2)手続き

 所轄の労働基準監督署長に、「葬祭料又は複数事業労働者葬祭給付請求書」(様式第16号)を提出します。合わせて、死亡診断書など、被災労働者の方の死亡の事実・年月日を証明できる書類の提出も必要とされています。

 

2. 複数事業者葬祭給付−複数業務要因災害の場合−

(1)給付内容

 葬祭料と同じ計算方法になります。

 

(2)手続き

 葬祭料と同じ手続きになります。

 

3. 葬祭給付−通勤災害の場合−

(1)給付内容

 葬祭料と同じ計算方法になります。

 

(2)手続き

 所轄の労働基準監督署長に、「葬祭給付請求書」(様式第16号の10)を提出します。合わせて、死亡診断書など、被災労働者の方の死亡の事実・年月日を証明できる書類の提出も必要とされています。

 

【参考ホームページ】

◇労災申請書式(厚生労働省) 

◇財団法人 労災保険情報センター

【関連ページ】

◇労災保険制度の基礎知識

 業務中または通勤中に交通事故にあってしまった場合には、労災保険から治療費、休業補償、障害補償、特別支給金など様々な給付が受けられる可能性があります。

 ここでは、労災保険の給付内容と請求手続きなどについてまとめています。

 

1.労災保険への加入義務

 労働者(常勤・パート・アルバイト・派遣等)を一人でも雇っている事業場は、労災保険に加入する義務があります(個人経営の農林水産業で労働者が5人未満の事業場は、加入義務から除かれています)。

 このため、通常ですとお勤め先は労災保険に加入していますが、仮に労災保険に加入していない場合でも、労災保険から給付がなされます(下記8(2)をご覧ください)。

 

2.給付を受けられる要件−業務災害・通勤災害・複数業務要因災害−

 労災保険は、業務上の災害(業務災害)、通勤途上の災害(通勤災害)に対して保険給付が行われます。

 また、複数の会社で働いている労働者の方が、2020年9月1日以降に傷病等が発生した場合、複数業務要因災害として認定される可能性もあります。

(1)業務災害

 ①上肢障害の労災認定 

 ②腰痛の労災認定

 ③心理的負荷による精神障害の労災認定(厚労省HP)

(2)通勤災害 

(3)複数業務要因災害…複数の会社で働いている労働者の方(複数事業労働者)が、複数の会社の業務を要因とする事由で被った負傷・疾病・障害・死亡等が対象とされています。

 

3.給付の概要

(1)療養(補償)等給付

(2)休業(補償)等給付

(3)傷病(補償)等年金

(4)介護(補償)等給付

(5)障害(補償)等給付

(6)遺族(補償)等給付

(7)葬祭料等

(8)通院費(交通費)

(9)特別支給金

 ①休業特別支給金、②傷病特別支給金・傷病特別年金、③障害特別支給金・障害特別年金・障害特別一時金 、④遺族特別支給金・遺族特別年金・遺族特別一時金

 

 複数業務要因災害については、2020年9月1日施行の労災保険法改正で、下記7つの保険給付が新設されました。

 ①複数事業労働者療養給付、②複数事業労働者休養給付、③複数事業労働者障害給付、④複数事業労働者遺族給付、⑤複数事業労働者葬祭給付、⑥複数事業労働者傷病年金、⑦複数事業労働者介護給付

 

4.労災保険の社会復帰促進事業

 労災保険の社会復帰等促進事業の基礎知識特別支給金アフターケアなど)をご覧ください。

 

5.保険給付についての不服申し立て

 労災保険の不服申し立て(審査請求・再審査請求)の基礎知識をご覧ください。

 

6.労災保険の時効について

 労災保険の時効の基礎知識をご覧ください。

 

7.交通事故の賠償金等との調整

 労災保険と自動車保険の調整方法をご覧ください。

 

8.その他

(1)労災事故発生時の会社の義務について

(2)勤務先が労災保険に加入していない場合(労災未加入)について

(3)労災保険の「労働者」に当たるか問題となる場合について

(4)派遣先で労働災害が発生した場合について

 

【参考ホームページ】

◇労災申請書式(厚生労働省) 

【関連ページ】

◇労災保険と自動車保険の調整方法

◇労災保険・健康保険の活用方法

◇労災保険と自賠責保険の後遺障害等級の違い

◇労災保険の後遺障害認定のポイント

◇自賠責保険と労災保険の後遺障害認定手続の特徴

◇労災保険の後遺障害認定時期と留意点

◇労災保険の後遺障害等級認定理由の確認方法

◇労働基準監督署の関節可動域測定の疑問点

◇労災保険の症状固定までの期間と障害認定

労災保険の「労働者」に当たるか問題となる場合について

 労災保険は、労働者が労働災害(業務災害複数業務要因災害または通勤災害により怪我等をしたときに補償を行う制度ですが、そもそも労働者に当たるかどうか問題になることがあります。

 ここでは、労働者の意味、労働者に当たるかどうかの判断ポイントなどについてまとめています。

 

1. 労災保険が適用される「労働者」とは

 労災保険が適用される「労働者」とは、職業の種類や常用・臨時雇用・日雇・アルバイト・パートタイマーなどの雇用形態に関係なく、適用事業(原則、労働者を使用するすべての事業)に使用される労働者であって、賃金が支払われる方をいいます。

 この条件を満たせば、働き始めた最初の日に労働災害が発生した場合や1日だけの契約で雇用された当日に労働災害が発生した場合でも、労災保険の給付を受けることができます。

 

2. 労働者に当たるかどうかの判断ポイント

 近年、多様な働き方が生まれており、名目は事業主でも、実質的には労働者と認められるケースが出てきています。

 下記の項目が多く該当する場合には、「労働者」として労災保険で補償される可能性があります。

(1)就業期間中、会社に専属的に従事していた(他社では働いていなかった)

(2)会社は事前に勤務表を作成・提示し、勤務時間を指示していた

(3)作業に使用する道具類・車両は会社の所有物であり、貸与を受けていた

(4)作業材料は会社が契約している材料店で仕入れ、材料費は会社が支払っていた

(5)会社から作業内容や勤務時間について指揮監督を受けていた

(6)出来高払制の報酬を受けていたが、実質は労務の対償として支払われていた

(7)会社が仕事の結果について一切の責に任じていた

 

3. 対応方法

 労働者にあたるかどうか疑問がある場合には、労働基準監督署や社会保険労務士にお問い合わせ・ご相談をいただきますとよいと思います。

(令和6年1月5日更新) 

 

【参考ホームページ】

◇社会保険加入にあたっての判断事例集(国土交通省ホームページ)

【関連ページ】

◇労災保険制度の基礎知識

勤務先が労災保険に加入していない場合(労災未加入の場合)について

 業務中もしくは通勤中に事故が起きて怪我をしてしまい労災保険を使いたいが、勤務先が労災保険に未加入のことがあります。

 ここでは、このような場合の対応方法等について記載しています。

 

1.労災保険の加入義務

 労働者を1人でも使用しているすべての事業には、労働者災害補償保険法(労災保険法)が適用され、労災保険に加入する義務が生じます。

 国が事業主から保険料を徴収して、労働者の業務災害複数業務要因災害通勤災害に対して保険給付を行うという関係は、法律上、事業主の事業が開始された日に自動的に成立することになっています。

 例外として、国の直営事業、非現業の中央・地方の官公署については、それぞれ独自の制度によって、労災保険と同様の保護が与えられているため、労災保険法の適用はありません。

 

2.労災事故が起きたが、勤務先が労災保険に未加入のときの対応

 勤務先が労災保険に未加入の場合でも、労働基準監督署で所定の手続きを行うことが可能です。その結果、労災(業務災害・複数業務要因災害・通勤災害)の認定を受けたときには、通常どおり、労災保険から給付がなされます。

 ただし、事業主が労働者死傷病報告を労働基準監督署長に届出しない場合には休業補償給付を受けられないとされています。

 

3.事業主からの費用徴収

 事業主が労災保険の加入手続を怠っていた期間中に労災事故が発生した場合には、遡って保険料が徴収されます。 

 このほか、事業主が故意に労災保険の加入手続きを行っていないと認められた場合には、労災保険から給付を受けた金額の100%が事業主から徴収され、事業主が重大な過失で加入手続きを行っていないと認められた場合には、労災保険から給付を受けた金額の40%が事業主から徴収されます。

 

【参考ホームページ】

◇労災保険に未加入の事業主に対する費用徴収制度(厚生労働省ホームページ)

【関連ページ】

◇労災保険制度の基礎知識

労災事故発生時の会社(事業主)の義務について

 労災事故(主に業務災害)が発生した際に、会社(事業主)は被災した労働者や労働基準監督署に対して一定のことを行う必要が出てくることがあります。

 ここでは、会社(事業主)が労災事故発生の際に行うべきことについてまとめています。

 

1.被災労働者への補償

 労働者が労災事故(業務災害)にあった場合、事業主は労働基準法に基づく補償を被災労働者に行う必要があります(通勤災害では労働基準法に基づく補償は求められていません)。

 しかし、事業主が労災保険に加入している場合には、労働基準法に基づく補償を行う必要はなく、労災保険から給付がなされます。

 ただ、労働者の休業1〜3日目の休業補償については、労災保険からは待期期間として給付されないため、業務災害の場合には、事業主は労働基準法で定める平均賃金の60%を直接労働者に支払う必要があります。

 

2.労災死傷病報告の届出通勤災害を除く

 事業者は、労働災害等により労働者が死亡または休業した場合には、遅滞なく、労働者死傷病報告を労働基準監督署長に届出する必要があります(派遣労働者の場合はこちら)。

 具体的には、労働者が、①労働災害により、②就業中に、③事業場内又はその附属建設物内で、または④事業の附属寄宿舎内で(これら①〜④のいずれかのため)、負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したときに届出の必要が生じます(労働安全衛生規則第97条)。

 この届出を怠った場合、虚偽の届出を行なった場合または出頭しなかった場合には、50万円以下の罰金刑が課せられるとされています(労働安全衛生法第100条、第120条)。

 なお、労働者死傷病報告は、労働災害統計の作成、労働災害の原因分析、同種労働災害の再発防止策の検討などにも活用されています。

 

3.死亡災害・重大災害が発生した場合

 死亡災害・重大災害が発生した場合には、通常、労働基準監督署により災害調査が実施されます。

 災害調査の結果、労働安全衛生法違反の疑いが認められたときには、労働基準監督官が特別司法警察員として捜査(強制捜査を含みます)を行い、実況見分、供述調書の作成、送致等が行われます。

 また、実際に労働災害が発生していない場合でも、同業他社で労働災害が発生したような場合や労働安全衛生法違反の申告があった場合などには、労働基準監督官によって、「臨検監督」が実施されることがあります。 

 臨検監督の結果、労働安全衛生法違反が認められた場合には是正勧告、また悪質性が認められる場合には労働安全衛生法違反被疑事件として立件されることがあります。

 

4.労災保険料への影響

 労災事故で労災保険から給付された場合に、事業主が今後支払う労災保険料に影響が出ることがあります。

 労災保険では、一定規模以上の事業について、個々の事業ごとにその事業の収支率に応じて、一定の範囲内で労災保険率または保険料額を上下させて、事業主の労働災害防止努力を促進しようとする制度が設けられています(メリット制といいます)

 労災保険を使っても、労災保険料に影響を受けない例として、下記が挙げられます。

 ・通勤災害による労災保険給付、二次健康診断等給付の支給額(業務災害のみ対象となります)

 ・継続事業で、常時20人未満の労働者を使用している事業

 ・有期事業の建設業で、確定保険料が40万円未満または請負金額が1億2000万円未満の場合

 上記のメリット制が適用される具体的な要件、保険料の計算方法等は、労災保険情報センターの保険料のページをご参照ください。

 

【関連ページ】

◇労災保険制度の基礎知識

◇勤務先が労災保険に加入していない場合(労災未加入)について

◇派遣先で労働災害が発生した場合

 派遣労働者の方が派遣先で業務中に労働災害にあって受傷した場合、派遣元と派遣先のどちらに、どのような請求ができるのか分かりにくいところがあります。

 下記では、派遣元・派遣先の義務等について、基礎的な事項をまとめています。

 

1.派遣労働者とは

 派遣労働者は、派遣元(派遣会社)に雇用されて賃金を受け取り、仕事に関しては派遣元と労働者派遣契約を結んだ派遣先での指揮・命令に基づき行う、という形をとります。

 派遣労働に関しては、労働者派遣法により、派遣労働者の定義を含め、様々なことが定められています。

 

2.派遣元の義務等

 派遣元は、派遣労働者の雇用主ですので、労働基準法・労働安全衛生法・労働契約法等の法律や雇用契約に基づき様々な義務・責任等が発生します。労災保険に加入する義務も、雇用主である派遣元にあります。

 このため、派遣先で事故が発生した場合には、派遣元の労災保険に申請することができます。派遣元はその管轄する労働基準監督署に労働者死傷病報告を行う必要があります。 

 

3.派遣先の義務等

 派遣先は、派遣労働者と直接の契約関係にありませんが、派遣元との労働者派遣契約に基づいて、業務の指揮・命令を行う立場にあります。このため、派遣先にも、労働基準法や労働安全衛生法等の法律の一部が適用され、様々な義務・責任等が発生します(派遣労働者に対する安全配慮義務も発生するとされています)。

 派遣労働者が業務中に労働災害が発生した場合には、派遣先を管轄する労働基準監督署に労働者死傷病報告を行う必要があるとともに、その写しを派遣元に送付する必要があります。

 労災保険については派遣元を管轄する労働基準監督署に手続きを行いますが、民事上の賠償責任は派遣先にも発生することがあります。

 

4.まとめ

 派遣先で業務中に労働災害にあってしまいお怪我をした場合、派遣元の労災保険に申請をして治療費や休業補償を受けることになります。しかし、労災保険からの支給には一定の限度があります(休業補償は100%ではなく、慰謝料は支給されないなど)。

 このため、派遣先・派遣元では任意に保険会社の労災保険に加入していることがありますので、まずは保険加入の有無の確認が必要になります。もし任意の労災保険に加入していない場合には、派遣先・派遣元に民事上の賠償請求ができることがあります。

 ただ民事上の賠償請求では、労災保険では適用されない過失相殺が適用されますので、派遣労働者の方の過失の有無・大きさによっては、実際の損害額が労災保険からの支給額を上回らないこともあり得ます。

 賠償請求のために会社側とやりとりを行う見込みのときには、お早めに労災を扱っている弁護士の方に準備しておくべきことや今後の見通し等について確認・相談しておく必要が出てくることがあります。

(平成27年10月30日作成)

【参考ホームページ】

◇派遣労働者の安全衛生対策について(厚生労働省ホームページ) 

【関連ページ】

◇労災保険制度の基礎知識

◇労災事故発生時の会社(事業主)の義務について

労働基準監督署の関節可動域角度測定の疑問点

 労働災害(業務災害または通勤災害)で関節可動域制限の後遺症が残ったときには、障害(補償)給付の請求のため、ご通院先の担当医師が関節可動域角度を記載した診断書を労働基準監督署(労基署)に提出します。

 労基署ではその後一般に、被災者の方と面接を行い、その時に改めて関節可動域角度を測定します。

 しかし、この関節可動域角度の測定は、労災の医師ではなく、労基署の職員の方が行うことがあり、その測定結果に疑問が生じることがあります。

 具体的にあった例として、労基署で測定した結果が、提出した診断書の測定結果と全く同じというケースがありました。

 関節可動域角度の測定結果は、測定する日や医師等により違いが出るものと認識していましたので、この労基署の測定結果の適正さについて疑問を覚えました。

 その後、被災者の方が通院する病院のカルテを確認したところ、当初提出した診断書の測定結果の記載にミスがあることが分かり、カルテに基づき担当医師に診断書の訂正をお願いするとともに、症状固定後に改めて関節可動域を測定していただいて測定結果とカルテを添付して審査請求を行いましたが、最終的には、労基署の測定結果が尊重されました。

 上記のような疑問を生じさせないようにするためには、労基署での関節可動域角度の測定は、原則として医師に依頼すべきと考えます。

 やむを得ず労基署の職員の方が測定する場合は、提出した診断書に記載された測定結果を知らない方が測定すべきと考えます。

(令和1年6月26日作成)

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◇労災保険制度の基礎知識

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◇労災保険の後遺障害等級認定理由の確認方法

◇労災保険の不服申立(審査請求・再審査請求)の基礎知識

◇労災保険の症状固定までの期間と障害認定

 労災保険の高次脳機能障害12級と14級の認定基準に違和感を覚える事案を扱ったことがあります。具体的には、画像上明らかな他覚的所見が認められるものの、残った障害は比較的軽微と思われるケースです。

 高次脳機能障害の等級は、労災保険の認定基準上、①意思疎通能力、②問題解決能力、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力の4つの能力(4能力)の喪失の程度に着目して評価し、複数の障害が認められるときには、原則として障害の程度の最も重いものに着目して評価されます。

 そして、12級と14級の各認定基準は、下記のように定められています。

  認定基準
12級

「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの」は、第12級の12に該当する。

  4能力のいずれか1つ以上の能力が「多少失われている」ものが該当する。

14級

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの」は、第14級の9とする。

  MRI,CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のため「わずかな能力喪失が認められている」ものが該当する。

 この認定基準からは、事故当初の画像上明らかな脳損傷(脳挫傷など)があり、重い高次脳機能障害があったものの、症状がよくなって症状固定の時点では4つの能力すべてについて「わずかに喪失」と主治医の先生が回答している場合、14級の認定でよいのか問題になり得ます。

 医師の回答上は、4つの能力すべてについて「多少喪失」よりも程度が軽い「わずかに喪失」に回答しているため、上記12級の基準は満たしていないことになります。しかし、画像により明らかな脳損傷が認められる場合には、上記14級の基準を満たしているとも言えません。

 このように、上記の認定基準では、症状固定時にも画像上明らかな脳損傷が残っているものの、高次脳機能障害の症状は比較的軽微な場合に、すっきり当てはまる等級がないことになります。

 労災保険の認定基準は基本的には、自覚症状主体の場合には14級、自覚症状を裏付ける画像所見等がある場合には12級以上を認定することを想定していると思いますので、能力喪失の程度についてあらためて十分に精査し、他の障害の認定基準との整合性・脳の損傷という受傷内容の重さ・画像所見も勘案して、上記のようなケースでは12級が認定されるべきと思われます。

 なお、自賠責保険では高次脳機能障害の等級については、労災の認定基準に基づき認定される等級を参考にしつつ、独自の基準で認定していると思いますが、上記のケースでは9級の認定になると思われます。

 労働基準監督署に提出する診断書等の内容はとても重要ですので、できるだけ提出前にご家族等にご確認いただくことも大切になります。

(平成28年7月1日作成)

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◇治療先と後遺障害等級認定

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◇労災保険と自賠責保険の後遺障害等級の違い

◇後遺障害診断書の作成依頼のポイント

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労災保険の症状固定までの期間と障害認定

 労災保険では、被災者の方の受傷の程度が重いときには、症状固定までかなり長い期間(例えば10年など)認められることがあります。このような対応は自動車保険では考えられません。この間、治療費や休業補償の給付がなされますので、被災者の方に有利な取り扱いにみえます。

 しかし、このように長い間治療を続けても、症状が良くならないときには症状固定となり、障害(補償)給付の請求に進みますが、このときの障害認定はやや厳しめに感じられることがあり注意が必要と思われます。

 その理由として、症状固定までの期間がかなり長い場合には、症状が軽減していたり、医師が作成する診断書がやや厳しめになることがあり得るからです。また、労災保険では、一度障害等級7級以上が認定されて年金支給になると、その後診断書の提出は求められず、年金支給が継続されますので、労基署としては、できれば一時金を支払って給付を終了にしたいことも考えられます。

 このため、障害の内容・程度から年金に該当しそうか微妙と思われるときは特に、労基署に提出する障害(補償)給付請求のための診断書の内容に注意することが大切になります。この最初の請求で障害等級7級以上が認定されないと、一時金の支払いで終了となる可能性が高くなるからです(不服申し立ては可能ですが、特に最初に提出した診断書等の内容の訂正に対しては、厳しめの態度をとってきます)。

 長期にわたる労災保険の給付は、一見被災者の方に有利にみえますが、症状固定後の補償は、障害(補償)給付請求に対する障害等級の認定結果に左右されますので、不安定な要素も含んでいます。

 障害の内容・程度が重いときには、医師等にご相談のうえ症状固定の時期を早めにして、着実に7級以上の等級認定を受けた方が、長い目で見ると有利になると思います。

以上

(令和2年1月10日作成)

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◇労災保険の後遺障害等級認定理由の確認方法

◇労災保険の不服申立(審査請求・再審査請求)の基礎知識

 労災事故(業務災害または通勤災害)では、労災保険の障害(補償)給付と国民年金・厚生年金の障害年金のそれぞれに申請手続きを行うことができ、両方から支給されることがあります。この場合、支給額について一定の調整が行われます。ここでは、どのように支給調整されるかまとめています。

 

 1.両方から年金が支給される場合

 労災保険と国民年金・厚生年金の両方にそれぞれ請求手続きを行った結果、労災保険では7級〜1級のいずれかの等級が認定され、国民年金・厚生年金では3級〜1級のいずれかの等級が認定された場合、それぞれから年金が支給されます。

 しかし、労災保険からの年金については、下記のとおり減額されて支給されます。

 

 ①障害厚生年金と障害基礎年金の両方支給・・・・労災からの年金は73%の支給(27%減額)

 ②障害厚生年金のみ支給・・・・労災からの年金は83%の支給(17%減額)

 ③障害基礎年金のみ支給・・・・労災からの年金は88%の支給(12%減額)

 

2.労災は障害(補償)給付、厚生年金は年金に該当せず障害手当金の場合

 労災保険では障害(補償)給付(14級から8級のいずれか)が認定され、厚生年金は3級〜1級に該当せず、障害手当金の基準に該当する場合には、支給調整の規定により、障害手当金は支給されないこととされています。

 この場合に厚生年金からも支給を受けるには、3級以上の認定を受ける必要があります。障害手当金の認定に納得できない場合には、不服申立手続(審査請求を行うことができます。

 

【関連ページ】

◇労災保険の障害(補償)給付の基礎知識

◇障害年金の基礎知識

 労災保険の後遺障害認定は、書面審査が中心ですが、労災の顧問医の面接や主治医等に対する医療照会も通常行われ、最初の請求の認定結果が出るのに3〜4ヶ月ほどはかかると思います。

 この認定に対する不服申立(審査請求・再審査請求)の審査はかなり厳密で、等級の変更は容易になされません。労災保険では最初の認定に力を入れていることがうかがわれます。

 これに対して自賠責保険の後遺障害認定は、書面審査だけで顧問医による面接はなく、医師への医療照会も最初の審査では通常行われず、最初の請求は1ヶ月ほどで認定結果が出ます(症状が重い場合等は初回から医師に医療照会を行い、結果が出るまでに半年以上かかることもあります)。

 自賠責保険の異議申し立ての審査も厳密ですが、労災保険よりも等級変更の可能性は高いと思われます。その理由として、自賠責保険は最初の認定結果が出るまでの期間は上記のとおり通常1か月ほどですので、この審査期間からすると、ある程度の異議申し立てがなされること、また、一定の等級変更がなされる可能性があることが想定されていると考えられます。

 労災保険は最初の認定で十分な時間と労力をかけて検討していることがうかがわれ、不服申立があっても簡単には変更されませんので、最初の審査の段階から適正な認定を優先していることがうかがわれます。

 これに対して自賠責保険の方は、大量の案件をある程度定型的に迅速に認定することを優先していることがうかがわれます。

 労災保険は最初の認定の重みが大きいと言えますが、自賠責保険も最初の請求の段階からできるだけきちんとした後遺障害診断書を医師に作成していただくことがとても大切になります(異議申し立て等に影響してくることがあります)。

  労災保険 自賠責保険
主な根拠法 労働者災害補償保険法 自動車損害賠償保障法                
請求先 労働基準監督署 保険会社
認定機関(初回) 同上 損害保険料率算出機構
医師面談 あり(原則) なし
結果が出るまでの期間(初回) 3ヶ月以上 1〜2ヶ月程度
認定基準 障害認定基準(労災補償障害認定必携) 労災保険に準拠
回答文書(初回) ハガキで結論のみ(理由の記載なし) 文書で結論・理由あり
不服申立の回数 審査請求と再審査請求の2回のみ 特に制限なし。但し、(財)自賠責保険・共済紛争処理機構で回答が出た後は不服申立できず。
不服申立の期限 審査請求は3ヶ月以内、再審査請求は2ヶ月以内 特になし(時効はあり)
請求先 審査請求は労働者災害補償保険審査官、再審査請求は労働保険審査会 保険会社または(財)自賠責保険・共済紛争処理機構
認定機関 同上 損害保険料率算出機構または(財)自賠責保険・共済紛争処理機構
回答文書 あり(審査請求では決定書、再審査請求では裁決書) あり
審査の内容 申立の内容以外も審査されることあり 申立の内容のみ
等級が下がるケース あり。但し、不利益変更禁止の規定により労基署の等級を維持 なし
結果が出るまでの期間 3ヶ月以上 保険会社は2ヶ月程度、(財)自賠責保険・共済紛争処理機構は4ヶ月程度

新型コロナウィルス感染症と労災認定(1)

 新型コロナウィルス感染症の感染が拡大し、深刻な問題になっています。新型コロナウィルスに感染し、発症してしまったときに、労災保険給付の対象(業務災害または通勤災害)になるのか、問題になります。下記では、この点について私見をまとめました。

 

1.厚生労働省の見解

 厚生労働省の新型コロナ関連のホームページによりますと、「労働者が新型コロナウィルス感染症を発症した場合、労災保険給付の対象となりますか。」との質問に対して、「業務又は通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります。詳しくは、事業場を管轄する労働基準監督署にご相談ください。」との回答がなされています。

 このことから、新型コロナウィルス発症の場合も、労災保険給付の対象となる可能性があることが分かります。

 

2.基本的な考え方

 労災保険給付がなされるには、業務中または通勤途中に災害が発生することが必要になります。

 新型コロナウィルス発症の場合、業務中または通勤途中に同ウィルスに感染したことが、ある程度特定される必要があると考えられます。

 この特定とは、いつ・どこで・何をしているときに・誰から感染したのか、ある程度明確にできることです。業務災害通勤災害に分けて考えてみます。

(1)業務災害

 業務中に、新型コロナウィルス感染症を発症された方と接し、その方と接した時期や場所、その他の感染可能性等から、その業務中に感染した可能性が高いと判断できましたら、業務災害に該当すると考えます。 

 例)病院や施設で業務中に、感染された方に接した。

 例)会議室で感染された方と打ち合わせをした。

 例)感染された方に接客をした。

 

(2)通勤災害

 通勤中に感染したことを特定したり、明らかにすることは、実際には難しいと考えられますが、通勤災害と認められる可能性がある例として、下記が考えられます。

 例)通勤中、感染している人からわざと感染させられた。

 例)通勤中に乗車していた車両から、多くの感染者が出た。

 上記のように、新型コロナウィルス感染症を発症した場合、業務災害に当たるかどうかの判断は比較的容易と思いますが、通勤災害に当たると認められることは実際には難しいと思われます。

 ただ、スマートフォンで濃厚接触の可能性が検出できるようになるなど技術開発が進めば、感染経路が特定されやすくなり、労災認定がより明確になると思われます。

以上

(令和2年4月6日作成)

【参考ホームページ】

◇労災申請書式(厚生労働省)

【関連ページ】

◇新型コロナウィルス感染症と労災認定(2)

◇新型コロナ感染症の後遺症と労災認定

◇労災保険制度の基礎知識

◇労災保険・健康保険の活用方法

ウーバーイーツ配達員の事故と自転車保険・労災保険

 ウーバーイーツ配達員による自転車での配達を最近よく見かけます。ほとんどの方が安全に移動していますが、稀にスピードを出していて危険と思われることもあります。

 ウーバーイーツ配達員が事故にあい、また、ウーバーイーツ配達員との事故に巻き込まれた場合の補償はどうなるのでしょうか。下記でまとめました。

 

1. ウーバーイーツ配達員について

 ウーバーイーツ配達員は、個人事業主とされています。ウーバー社との間に雇用契約はありません。労働者ではないため、配達中に負傷しても、原則として労災保険の対象にはなりません。ただし、2021年9月1日から労災保険に特別加入することができるようになりました(下記5参照)。

 ウーバーイーツ配達員は、簡単に登録でき、好きな時間に自分の自転車等で専用のアプリを使って手軽に配達できること、配達1回ごとに報酬(雨の日や混雑時等の増額もある)が発生し1週間に1回まとめて支払われること、などが魅力と思われます。

 

2. ウーバーイーツ配達員が加入している保険

 ウーバーイーツ配達員はすべて、自動的に下記の保険に加入しています。

(1)対人・対物賠償責任  
 配達中の事故で、他人を死傷させたり、他人の物品を壊してしまい法律上の賠償責任が発生した場合に補償されます。  
 この「配達中の事故」とは、配達リクエストを受諾した時点から配達が完了、またはキャンセルされるまでの間に生じた事故とされています。

 

(2)傷害補償
 配達中の事故で、配達員自身が負傷した場合には、下記の補償がなされます。

①医療見舞金:X線検査、手術、投薬等必要な医療費を補償。50万円上限。

②死亡見舞金・葬式費用:配達員が死亡した場合、相続人に一時金1000万円。葬式費用は100万円上限。

③後遺障害見舞金:後遺障害が生じた場合、最大1000万円の一時金(金額は、後遺障害の症状により異なる)

④入院に伴う見舞金:負傷して入院し働けなくなった場合、1日あたり7500円。60日上限。  

⑤配偶者・被扶養者への見舞金:配達員が死亡した場合、その配偶者・被扶養者(18才以下)は1人あたり15万円の見舞金(最大3人まで)。

⑥後遺障害等級の確定費用:配達員が自身の後遺障害等級を提示するために要する専門機関への委託費用等について、実際に要した額

入院一時金:配達員が入院した際、ヘルメットを装着していた場合は2万円の一時金、ヘルメット非装着の場合は5000円の一時金。

手術一時金:配達員が負傷して手術を行う際、入院し宿泊を要する場合は7万5000円、外来手術の場合は3万7500円の一時金。

 

3. ウーバーイーツ配達員が負傷した場合の補償

(1)配達中の事故

 ウーバーイーツ配達員が負傷した場合、配達中の事故でしたら、上記2の保険の対象となります。

 ただし見舞金の性質上、お怪我の内容・程度によっては治療費や休業補償など十分とは言えないことも出てくるおそれがあります。ご自身で労災保険に特別加入するか、別に保険に加入するのが安心と思われます。

 

(2)配達中以外の事故

 配達中以外の事故の場合、上記2の保険の対象外とされています。個人事業主という立場上、原則として労災保険の対象になりませんので、ご自身で労災保険に特別加入するか、別に保険に加入するのが安心と思われます。

 

4. 自転車でのウーバーイーツ配達員に負傷させられた場合の補償

(1)配達中の事故

 配達中に負傷させられた場合は、上記2の保険の対象となります。上限額は明らかではありませんが、従来は1億円とされていましたので、金額面では特に心配ないと思われます。

 

(2)配達中以外の事故

 配達中以外に負傷させられた場合には、上記2の保険の対象外とされています。配達員が個人で別に賠償責任保険等に加入していない場合、無保険ということになります。

 被害者の方が加入する保険のほか、通勤中や業務中でしたら労災保険に請求できますが、基本的には、配達員に対して補償を求めていくことになると思います。

 

5. 労災保険の特別加入の対象拡大

 ウーバーイーツ配達員は、労働者でなく個人事業主という立場上、原則として労災保険の対象にはなりませんが、2021年9月1日から労災保険に特別加入できるようになりました。

 この特別加入をするには、労災保険の特別加入を扱う団体(特別加入団体)に所定の手続きをすることが必要になります。

 

6. まとめ

 すべてのウーバーイーツ配達員には自動的に上記の保険がついていますが、見舞金の性質上、怪我の内容・程度によっては上記補償だけでは不十分になる恐れがあります。

 労災保険に特別加入するか、配達員個人で別に保険に加入することが安心と思われます。     

(令和6年1月18日更新)                     

 労災保険の後遺障害認定は、基本的には主治医の先生が作成する症状固定日における診断書の記載内容に基づいて行われます

 この時、症状固定後に受けた検査の結果等は、労災保険の後遺障害認定では一切考慮されないことがあることに注意が必要です。
 例えば、症状固定後に、症状を裏付けるための画像の検査を新たに受けて資料として提出しても、症状固定後の検査ため審査の対象にしない(受理しない)という対応がなされることがあります。
 このため、労災保険の
後遺障害認定に必要と思われる検査等は、症状固定前にできる限り受けておくことが望ましいことになります。
 ただ
、このような労災保険の対応は、労災保険の認定基準(障害認定必携)の症状固定に関する規定からすると、疑問があります。
 労災保険の認定基準上、症状固定について、「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したときをいう」と定められています。
 この意味からすると、症状固定とは、症状が最終の状態に達しており、その後の状態は大きく変わらないことを前提にしていることになります。
 症状固定後に行った検査であっても、最終の状態時の検査であることに変わりありませんので、障害の原因や程度をより明確に把握できる可能性のある資料であれば、症状固定後に検査が行われたというだけで審査の対象から除外する理由は
ないように思われるからです。
自賠責保険の後遺障害認定では、症状固定後に行った検査であるという理由だけで、審査の対象から除外する扱いはされていないと思います。
 このように、労災の対応にはやや疑問があるものの、症状固定前にできる検査等はできるだけ受けておくことが望ましいことになります。
 なお、
労災事故が交通事故の場合、
症状固定の考え方は労災保険も自賠責保険も同じですので、それぞれの保険の診断書に記入される症状固定日の日付は、
同じ日付になることが多いと思います。

以上

(平成28年3月18日作成)

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◇自賠責保険と労災保険の後遺障害認定手続の特徴

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◇労働基準監督署の関節可動域測定の疑問点

 労災保険から後遺障害等級の認定結果が届いたときに、その理由を確認したいことがあります。

 確認方法として、労働基準監督署に電話等で確認する方法と都道府県労働局に情報開示請求する方法があります。ここでは、これらの確認方法についてまとめています。

 

1.労働基準監督署に電話等で確認する方法

 労働基準監督署に障害(補償)給付の請求をした場合、その結果はハガキ(支給決定通知兼支払振込通知)で届きます。ハガキには、担当の労働基準監督署名と電話番号、また、不明の点は照会してくださいという記載がありますので、ご本人がお電話しますと、認定内容や認定理由の概要を確認できると思います。

 認定を受けた労働基準監督署に訪問できるようでしたら、事前に連絡のうえ訪問しますと、認定理由等の説明を受けることができます。ただ認定資料の写しは入手できないと思います。

 

2.都道府県労働局に情報開示請求する方法

 労働基準監督署で障害等級の認定のために調査した書類(調査結果復命書)を入手するには、都道府県労働局に情報開示請求という手続きが必要になります。不服申し立てをご検討の場合には、お手間でも、入手して内容を確認された方が良いと思います。  

 情報開示請求の手続きは、下記の通りです。なお、手続きは郵送と直接出向いて行う方法がありますが、ここでは郵送の方法を記しています。

(1)保有個人情報開示請求書の入手

 厚生労働省のホームページ(請求書等書式)から「保有個人情報開示請求書」を選び、記入します(都道府県労働局などでも入手できます)。

 

(2)「保有個人情報開示請求書」への記入

 宛先は、行政機関の長あてとなります。例えば、都内の労働基準監督署で認定を受けた場合には、「東京労働局長」と記入します。

 「開示を請求する保有個人情報」の欄には、「令和○○年○○月○○日付けで ○○労働基準監督署長が私の障害補償給付支給請求に係る決定を行った際に○○労働基準監督署で作成された「調査結果復命書」(添付資料すべて含む)」などと記入します。

 記入例については、福岡労働局のホームページに詳しく説明されています。

 

(3)本人確認書類等の用意

 情報開示請求は、本人または代理人(委任状フォーム)が行うことができます。本人確認書類として、運転免許証・健康保険被保険者証の写しなどの提出が求められます。郵送で開示請求をする場合には、住民票の写しの添付も必要となります。

 具体的な本人確認書類の内容、代理人申請の場合の記入方法・必要書類等は、「保有個人情報開示請求書」の2枚目と3枚目に説明があります。

 

(4)収入印紙(300円分)の用意

 手数料は、1件300円とされています。300円分の収入印紙を「保有個人情報開示請求書」の「3.手数料」の所定の位置に貼ります。

 

(5)各都道府県労働局の担当部署宛に送付

 各都道府県労働局(都内の労働基準監督署が担当でしたら、東京労働局になります)の担当部署である総務部総務課あてに、収入印紙を貼った「保有個人情報開示請求書」と本人確認書類、住民票などを送付します。

東京労働局/埼玉労働局/神奈川労働局/千葉労働局/栃木労働局/群馬労働局/長野労働局

 

(6)開示決定通知書等の受領と申出書の提出

 開示請求書を送付してから1ヶ月ほど経過後に、開示請求を行った情報の開示が決定した旨の書類(開示決定通知書)が送られてきます。

 「保有個人情報の開示の実施方法等申出書」という書類も添付されていますので、希望する開示方法等を記入して、再度都道府県労働局に送付します。

 

(7)開示書類が届く

 申出書を送付してから2週間ほどで開示書類が届きますので、内容を確認します。

 上記のとおり、情報開示請求を郵送で行う場合、開示書類が送付されるまでに1ヶ月半ほどかかると思います。

 不服申し立て(審査請求、再審査請求)を行う場合には所定の期限がありますので、先に審査請求書を送付して不服申し立ての意思があることを伝えることで、期限の問題をクリアしておくことが安心と思います。

(令和4年5月25日更新)

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◇労災保険の不服申立(審査請求・再審査請求)の基礎知識

パワハラ防止法と労災認定のポイント

 職場でのパワーハラスメント(パワハラ)が最近大きな問題になっており、パワハラ防止法が令和2年6月1日に施行されました。これに伴い、労災保険では精神障害の認定基準も改定されています。 

 下記では、パワハラ防止法と労災認定のポイントについてまとめています。



1.パワハラ防止法のポイント

(1)根拠となる法律

 「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称:労働施策総合推進法)の第30条の2以降にパワハラ防止に関する規定が新設されており、この部分が一般にパワハラ防止法といわれています。 

 

(2)事業主が講ずべき措置

 事業主は、法律で下記のことを行わなければいけないことが規定されています。

①パワハラを受けた労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じること

②労働者が相談を行つたこと、事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしないこと

 さらに厚生労働大臣は、適切かつ有効な実施を図るため、指針「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針 」を公表しています。 

 

(3)パワハラの定義

 パワハラとは、職場において行われる下記の3つの要素すべてを満たすものと定義されています。

①優越的な関係を背景とした言動 

②業務上必要かつ相当な範囲を超えている 

③労働者の就業環境が害される 

 

(4)パワハラの防止策  

 パワハラの防止策として、下記が求められています。

①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 

②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

 

(5)パワハラが発生した時の対応  

 パワハラが発生した場合には、下記のことを行うことが求められています。

①事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること

② ①により、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行うこと

③①により、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと

④改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること

 

2.パワハラに関する労災認定のポイント

(1)概要

 労災保険では業務に起因する精神障害について、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和2年8月21日付け基発0821第4号)に基づき認定されています。

 今般のパワハラ防止法の施行に伴い、パワハラにより精神障害を負った場合も労災保険の対象となることが認定基準(「心理的負荷による精神障害の認定基準」の「業務による心理的負荷評価表」)において明記されました。

 この「業務による心理的負荷評価表」の主な変更点は、下記のとおりです。

変更前 変更後
上司や同僚等から、嫌がらせ・いじめや暴行を受けた場合、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ又は暴行を受けた」という具体的出来事に当てはめて、心理的負荷を評価。 上司や同僚等から、嫌がらせ・いじめや暴行を受けた場合、職場における人間関係の優越性等に注目し、心理的負荷を評価。
①優位性ありの場合
 「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」という具体的出来事に当てはめて、心理的負荷を評価。「上司等」には、下記が含まれます。
・職務上の地位が上位の者
・同僚や部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合
・同僚や部下からの集団による行為でこれに抵抗または拒絶することが困難な場合

②優位性なしの場合
 「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」という具体的出来事に当てはめて、心理的負荷を評価

 

(2)パワハラに関する新しい認定基準

①心理的負荷の総合評価の視点

 「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」という具体的出来事において、心理的負荷が評価される際、下記がポイントとされています。

  • 指導・叱責等の言動に至る経緯や状況
  • 身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度等
  • 反復・継続など執拗性の状況
  • 就業環境を害する程度 
  • 会社の対応の有無及び内容、改善の状況

 

②心理的負荷の強度判断の具体例

心理的負荷「弱」の具体例 心理的負荷「中」の具体例 心理的負荷「強」の具体例

上司等による身体的攻撃、精神的攻撃等が「強」の程度に至らない場合、心理的負荷の総合評価の視点を踏まえて「弱」又は「中」と評価 

上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた

【「強」である例】
○上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合

○上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合

○上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合

・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃

・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃

○心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合 

【「弱」になる例】

○上司等による「中」に至らない程度の身体的攻撃、精神的攻撃等が行われた場合 
 

【「中」になる例】
○上司等による次のような身体的攻撃・精神的攻撃が行われ、行為が反復・継続していない場合 

治療を要さない程度の暴行による身体的攻撃

・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃

・必要以上に長時間にわたる叱責他の労働者の面前における威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃 

 

③労災認定のポイント

 パワハラなど業務に起因して精神障害が発生したとして労災認定されるポイントは、下記の通りとされています。

(a)認定基準の対象となる精神障害(対象疾病)を発病していること

(b)発病前のおおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

(c)業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したと認められないこと

 パワハラとして労災認定を受けるには、上記(a)から(c)の全てを満たす必要があります。

 また、被災者が主観的にどう受け止めたかでなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという客観的観点から評価されることとされています。

 

3.実際にパワハラを受けた時の対応

 パワハラでは上記2の通り、客観的観点も重視されていますので、1人で抱え込まず、下記の様な対応をとることが望ましいです。

(1)パワハラを受けた日付、時間、どのようなことをされたかなど、できるだけ詳しく記録しておく

(2)職場の同僚、友人、家族などに早めに相談する

(3)会社の相談窓口に相談する

(4)上記(1)〜(3)でも難しい場合、労働局や労基署など専門の第三者に相談する

(5)精神的につらい場合、無理せず心療内科や精神科など専門医を受診する

 以上

(令和6年2月13日更新)

【参考ホームページ】

◇精神障害の労災補償について(厚生労働省)

◇精神障害の労災認定(厚生労働省)

◇心理的負荷による精神障害の認定基準(令和2年8月21日付け基発0821第4号)

◇個別労働紛争制度−労働相談、助言・指導、あっせん(厚生労働省)

【関連ページ】

◇労災保険制度の基礎知識

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