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パワハラ防止法と労災認定のポイント

 職場でのパワーハラスメント(パワハラ)が最近大きな問題になっており、パワハラ防止法が令和2年6月1日に施行されました。これに伴い、労災保険では精神障害の認定基準も改定されています。 

 下記では、パワハラ防止法と労災認定のポイントについてまとめています。



1.パワハラ防止法のポイント

(1)根拠となる法律

 「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称:労働施策総合推進法)の第30条の2以降にパワハラ防止に関する規定が新設されており、この部分が一般にパワハラ防止法といわれています。 

 

(2)事業主が講ずべき措置

 事業主は、法律で下記のことを行わなければいけないことが規定されています。

①パワハラを受けた労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じること

②労働者が相談を行つたこと、事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしないこと

 さらに厚生労働大臣は、適切かつ有効な実施を図るため、指針「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針 」を公表しています。 

 

(3)パワハラの定義

 パワハラとは、職場において行われる下記の3つの要素すべてを満たすものと定義されています。

①優越的な関係を背景とした言動 

②業務上必要かつ相当な範囲を超えている 

③労働者の就業環境が害される 

 

(4)パワハラの防止策  

 パワハラの防止策として、下記が求められています。

①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 

②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

 

(5)パワハラが発生した時の対応  

 パワハラが発生した場合には、下記のことを行うことが求められています。

①事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること

② ①により、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行うこと

③①により、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと

④改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること

 

2.パワハラに関する労災認定のポイント

(1)概要

 労災保険では業務に起因する精神障害について、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和2年8月21日付け基発0821第4号)に基づき認定されています。

 今般のパワハラ防止法の施行に伴い、パワハラにより精神障害を負った場合も労災保険の対象となることが認定基準(「心理的負荷による精神障害の認定基準」の「業務による心理的負荷評価表」)において明記されました。

 この「業務による心理的負荷評価表」の主な変更点は、下記のとおりです。

変更前 変更後
上司や同僚等から、嫌がらせ・いじめや暴行を受けた場合、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ又は暴行を受けた」という具体的出来事に当てはめて、心理的負荷を評価。 上司や同僚等から、嫌がらせ・いじめや暴行を受けた場合、職場における人間関係の優越性等に注目し、心理的負荷を評価。
①優位性ありの場合
 「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」という具体的出来事に当てはめて、心理的負荷を評価。「上司等」には、下記が含まれます。
・職務上の地位が上位の者
・同僚や部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合
・同僚や部下からの集団による行為でこれに抵抗または拒絶することが困難な場合

②優位性なしの場合
 「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」という具体的出来事に当てはめて、心理的負荷を評価

 

(2)パワハラに関する新しい認定基準

①心理的負荷の総合評価の視点

 「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」という具体的出来事において、心理的負荷が評価される際、下記がポイントとされています。

  • 指導・叱責等の言動に至る経緯や状況
  • 身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度等
  • 反復・継続など執拗性の状況
  • 就業環境を害する程度 
  • 会社の対応の有無及び内容、改善の状況

 

②心理的負荷の強度判断の具体例

心理的負荷「弱」の具体例 心理的負荷「中」の具体例 心理的負荷「強」の具体例

上司等による身体的攻撃、精神的攻撃等が「強」の程度に至らない場合、心理的負荷の総合評価の視点を踏まえて「弱」又は「中」と評価 

上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた

【「強」である例】
○上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合

○上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合

○上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合

・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃

・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃

○心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合 

【「弱」になる例】

○上司等による「中」に至らない程度の身体的攻撃、精神的攻撃等が行われた場合 
 

【「中」になる例】
○上司等による次のような身体的攻撃・精神的攻撃が行われ、行為が反復・継続していない場合 

治療を要さない程度の暴行による身体的攻撃

・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃

・必要以上に長時間にわたる叱責他の労働者の面前における威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃 

 

③労災認定のポイント

 パワハラなど業務に起因して精神障害が発生したとして労災認定されるポイントは、下記の通りとされています。

(a)認定基準の対象となる精神障害(対象疾病)を発病していること

(b)発病前のおおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

(c)業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したと認められないこと

 パワハラとして労災認定を受けるには、上記(a)から(c)の全てを満たす必要があります。

 また、被災者が主観的にどう受け止めたかでなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという客観的観点から評価されることとされています。

 

3.実際にパワハラを受けた時の対応

 パワハラでは上記2の通り、客観的観点も重視されていますので、1人で抱え込まず、下記の様な対応をとることが望ましいです。

(1)パワハラを受けた日付、時間、どのようなことをされたかなど、できるだけ詳しく記録しておく

(2)職場の同僚、友人、家族などに早めに相談する

(3)会社の相談窓口に相談する

(4)上記(1)〜(3)でも難しい場合、労働局や労基署など専門の第三者に相談する

(5)精神的につらい場合、無理せず心療内科や精神科など専門医を受診する

 以上

(令和6年2月13日更新)

【参考ホームページ】

◇精神障害の労災補償について(厚生労働省)

◇精神障害の労災認定(厚生労働省)

◇心理的負荷による精神障害の認定基準(令和2年8月21日付け基発0821第4号)

◇個別労働紛争制度−労働相談、助言・指導、あっせん(厚生労働省)

【関連ページ】

◇労災保険制度の基礎知識

 労災保険では、自賠責保険と異なり、症状固定となった後も治療等を続けることができることがあります。これはアフターケア制度と言われています。下記では、アフターケア制度の概要についてまとめています。

 

1.アフターケア制度とは

 アフターケア制度とは、労災保険の社会復帰等促進事業の一つとして実施されており、被災労働者の方の労働能力を維持し円滑に社会復帰することを目的としています。

 

2.アフターケア制度の対象疾病など

(1)対象となる疾病

 アフターケア制度の対象となる疾病は、次の20とされています。

   せき髄損傷、頭頸部症候群等、尿路系障害、慢性肝炎、白内障等、振動障害、大腿骨頸部骨折及び股関節脱臼・脱臼骨折、人工関節・人工骨頭置換、慢性化膿性骨髄炎、虚血性心疾患、尿路系腫瘍、脳の器質性障害、外傷による末梢神経損傷、熱傷、サリン中毒、精神障害、循環器障害、呼吸機能障害、消化器障害、炭鉱災害による一酸化炭素中毒

 

(2)対象となる方・措置範囲・有効期間

 一部の疾病について、対象となる方、措置の範囲と有効期間についてまとめています。

疾病

対象者 措置範囲 有効期間
せき髄損傷 1.せき髄損傷で障害等級3級以上の障害(補償)給付を受けている、または受けると見込まれる方(症状固定した方)のうち、医学的に早期にアフターケアの実施が必要と認められる方

2.障害等級4級以下の障害(補償)給付を受けている方で、医学的に特に必要があると認められる方
1.診察
 月に1回程度、必要に応じて

2.保健指導
 診察の都度、必要に応じて

3.保健のための措置
 褥瘡措置、尿路措置、薬剤の支給

4.検査(診察の結果、必要に応じて)
 尿検査、血液検査、画像検査など
1.新規交付
 3年間

2.更新による再交付
 5年間
頭頸部外傷症候群 1.①頭頸部外傷症候群、②頸肩腕障害、③腰痛で障害等級9級以上の障害(補償)給付を受けている、または受けると見込まれる方(症状固定した方)で、医学的に早期にアフターケアの実施が必要と認められる方

2.障害等級10級以下の障害(補償)給付を受けており、医学的に特に必要があると認められる方
1.診察
 月に1回程度、必要に応じて。

2.保健指導
 診察の都度、必要に応じて

3.保健のための措置
 薬剤の支給

4.検査
 X線検査など(1年に1回程度)
1.新規交付
 2年間

2.更新による再交付
 なし
大腿骨頸部骨折及び股関節脱臼骨折 1.大腿骨頸部骨折及び股関節脱臼骨折で障害(補償)給付を受けている、または受けると見込まれる方(症状固定した方)のうち、医学的に早期にアフターケアの実施が必要と認められる方

2.障害(補償)給付を受けていない方で、医学的に特に必要があると認められる方
1.診察
 3〜6月に1回程度、必要に応じて。

2.保健指導
 診察の都度、必要に応じて

3.保健のための措置
 薬剤の支給

4.検査
 X線検査など(3〜6ヶ月に1回程度)
1.新規交付
 3年間

2.更新による再交付
 1年間
人工関節・人工骨頭置換 人工関節及び人工骨頭を置換して障害(補償)を受けている、または受けると見込まれる方(症状固定した方)のうち、医学的に早期にアフターケアの実施が必要と認められる方 1.診察
 原則、3〜6月に1回程度、必要に応じて。

2.保健指導
 診察の都度、必要に応じて

3.保健のための措置
 薬剤の支給

4.検査
 X線検査など(3〜6ヶ月に1回程度) 
1.新規交付
 3年間

2.更新による再交付
 5年間
脳の器質性障害 1.①外傷による脳の器質的損傷、②一酸化炭素中毒(炭鉱災害によるものを除く)、③減圧症、④脳血管疾患、⑤有機溶剤中毒の傷病に由来する脳の器質性障害のため障害等級9級以上の障害(補償)給付を受けている、または受けると見込まれる方(症状固定した方)で、医学的に早期にアフターケアの実施が必要と認められる方

2.障害等級10級以下の障害(補償)給付を受けている方で、医学的に特に必要があると認められる方
1.診察
 原則、月に1回程度、必要に応じて。

2.保健指導
 診察の都度、必要に応じて

3.保健のための措置
 精神療法・カウンセリング、褥瘡措置、尿路措置、薬剤の支給

4.検査
 脳波検査、画像検査など(1年に1回程度)
1.新規交付
 2年間(左記①②の障害)または3年間(左記③④⑤の障害)

2.更新による再交付
 1年間
外傷による末梢神経損傷  外傷による末梢神経損傷に起因し、症状固定後も激しい疼痛が残存し、障害等級12級以上の障害(補償)給付を受けている、または受けると見込まれる方(症状固定した方)で、医学的に早期にアフターケアの実施が必要と認めらる方  1.診察
 原則、月に1〜2回程度、必要に応じて。

2.保健指導
 診察の都度、必要に応じて

3.保健のための措置
 注射、薬剤の支給

4.検査
 X線検査など(必要に応じて1年に2回程度)
1.新規交付
 3年間

2.更新による再交付
 1年間

 

3.手続き

(1)健康管理手帳の交付申請

 アフターケアの手続きは、「健康管理手帳交付申請書」を支給決定を受けた労基署を管轄する都道府県労働局長に提出し、一定の要件を満たしている場合には、「健康管理手帳」の交付が受けられます。

 申請は、怪我や病気が治ったとき(症状固定を含む)に行うことができます。疾病によっては、申請期限がありますので、早めに申請することが大切になります。

 

(2)病院等への受診

 アフターケアは、労災病院、労災の規定により指定された病院・診療所・薬局などで受けることができます。診察の際は、その都度、健康管理手帳を提示する必要があります。

 アフターケアにかかる通院費も「アフターケア通院費支給申請書」により請求できます。

 

(3)健康管理手帳の更新

 健康管理手帳には、上記の表のように、傷病別、新規・更新別に有効期間があります。 

 有効期間経過後もアフターケアの必要がある場合には、健康管理手帳の更新の申請を行うことが必要になります。有効期間満了の1か月前までに、「健康管理手帳更新・再交付申請書」に所定の書式の診断書(診断書の提出が不要な疾病もあります)を添えて、交付申請をした都道府県労働局長に申請を行います。

(令和6年1月30日更新)

 

【参考ホームページ】

◇アフターケア制度のご案内(厚生労働省ホームページ)

【関連情報・コラム】

◇労災保険制度の基礎知識

◇労災保険の社会復帰等促進事業の基礎知識

◇労災保険と自賠責保険の後遺障害等級の違い

◇労災保険の後遺障害認定のポイント

◇派遣先で労働災害が発生した場合

◇自賠責保険と労災保険の後遺障害認定手続の特徴

◇労災保険の後遺障害認定時期と留意点

◇労災保険の後遺障害等級認定理由の確認方法

新型コロナウイルス感染症と労災認定(2)

 新型コロナウィルス感染症に感染し発症してしまったときに、労災保険給付の対象(業務災害または通勤災害)になるのか、厚生労働省は令和2年4月28日付通達判断基準を示しています

 下記では、この通達に基づき、新型コロナウイルスの労災認定のポイントをまとめました。

 

1.医療従事者等の感染

 診察、看護、介護等に従事する医師、看護師、介護従事者等については、原則として、労災保険給付の対象になります。

 業務外で感染したことが明らかである場合は、給付対象外になります。

 

2.感染経路が特定された場合

 新型コロナウイルス感染症の感染経路が特定された場合、感染源が業務に内在していたことが明らかと認められるときは、労災保険給付の対象になります。

 

3.感染経路が特定されない場合

 新型コロナウイルス感染症の感染経路が特定されない場合でも、感染リスクが相対的に高いと考えられる下記のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときは、労災保険給付の対象となる可能性があります。

 ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務

 イ)顧客等との近接や接触の機会が大きい労働環境下での業務

 これらの場合、新型コロナウイルスの潜伏期間内(認定事例上、発症前14日間)の業務従事状況および一般生活状況等について調査し、医学専門家の意見も踏まえて、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるときは、労災保険給付の対象になります。

 

4.海外出張労働者

 出張先国が多数の新型コロナウイルス感染症の発生国で、明らかに高い感染リスクを有すると客観的に認められ、出張業務に内在する危険が具現化したものと認められる場合には、労災保険給付の対象になります。

 上記のとおり、医療従事者等については原則として労災保険給付の対象とし、また、感染経路が特定されない場合でも労災保険給付の対象になる可能性がある旨の判断基準を示したことは有意義と思います。

 通勤災害については判断基準等が特に示されていませんが、通常の災害と同じ考え方で調査・判断等されると思われます。

以上

(令和2年10月13日作成)

【参考ホームページ】

◇新型コロナウイルス感染症に係る労災補償について(厚生労働省)

◇新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例 (厚生労働省)

◇労災申請書式(厚生労働省)

【関連ページ】

◇新型コロナウィルス感染症と労災認定(1)

◇新型コロナ感染症の後遺症と労災認定

◇労災保険制度の基礎知識

◇労災保険・健康保険の活用方法

労働保険審査会に出席して(感想)(2)

 依頼者の方のご希望で、労働保険審査会の公開審理に約8年振りに出席しました。

 新型コロナウイルスの影響で一時審理を延期していたようですが、通常どおり実施されました。

 労働保険審査会は、労災保険と雇用保険の再審査請求に対して審査を行う国の機関で、東京都港区の労働委員会会館に入っています。

 指定どおり審理開始時間の30分前に受付を済ませ、受付の方を除き誰もいない広い控え室で資料を読みながら待ちます。ホワイトボードに貼られている当日の審理予定一覧を見ると、朝から夕方まで10件近くの案件がびっしり埋まっています。1件あたりの審理時間は30分(予定)。ふと控え室の窓の外を見ると、東京タワーと東京プリンスホテルの一部が目に入ります。

 審理開始時間の数分前に控え室の電話が鳴り、電話に出た受付の方から「時間ですので案内します」といわれ、1フロア上の会議室に案内されます。審理状況で時間が前後するようですが、予定どおりでした。入室前に、両手の消毒を求められます。

 会議室に入ると、前回より会議室が小さくなったのか、正面に座る審査長1名・審査官2名との距離がより近くに感じました。また、前回ほどは厳格で威圧的な雰囲気は印象は特に受けませんでした。

 再審査請求人の方は遠方在住で出席できないため、私だけ代理人席に座ります。

 出席者の確認(人定質問)ではじまり、原処分庁担当者の意見陳述、再審査請求人側の意見陳述、審査官2人・審査長1人からの質問に対する応答、という流れで10分ほどで終了しました。前回は参与の方からも質問がありましたが、今回はありませんでした。

 留意点ですが、事前に配布される資料集をもとに審理が行われますので、資料集をよく読み、記載されていることについて答えることができるようにしておくことが大切と思いました。

 結果は、審理終了後3か月ほどで結論・理由が書かれた文書(裁決書)が届くようです。労災保険障害(補償)給付の再審査請求については特に、結論変更の可能性が非常に低く、さらに請求から決定まで約1年という長い時間かかりますので、これらも踏まえて手続きを進める必要があります。

(令和2年10月20日作成)

【参考ホームページ】

◇労働保険審査会/厚生労働省ホームページ 

【関連ページ】 

◇労働保険審査会に出席して(感想)(1)

◇労災保険の不服申し立て(審査請求・再審査請求)の基礎知識 

 厚生労働省の行う毎月勤労統計調査の結果は、労災保険や雇用保険等の給付に影響を与えています。

 労災保険では、労災年金と休業(補償)給付の額を計算する際に考慮される、スライド率と最低保障額に影響しています。

 今般、毎月勤労統計調査の調査方法に問題があることが判明し、再集計・再計算により、これまで労災保険から給付を受けていた方、現在給付を受けている方に対して、追加給付されることとなりました。

 労災保険の追加給付については、現時点(平成31年1月17日時点)で、厚生労働省・労働局等により、下記のような案内がなされています。

 

1.追加給付される可能性のある方

 平成167月以降に、下記の給付を受けた方が追加給付の可能性があります。

 傷病(補償)年金、障害(補償)年金、遺族(補償)年金、休業(補償)給付、 傷病特別年金、障害特別年金、遺族特別年金、遺族特別一時金、休業特別支給金 等 

 

2.手続き

 追加給付される方のみ、住所にハガキ等で連絡の予定(詳細は今後厚生労働省のホームページで案内の予定)とされています。

 

3.追加給付額(概算)

 追加給付額(平均額)は、下記のとおり見込まれています。

 ・年金給付(特別支給金を含む)→ 1人あたり平均約9万円
 ・休業補償(休業特別支給金を含む)→ 1人1ヶ月あたり平均約300 円

 

4.相談窓口

 労災保険の給付について疑問がある場合には、下記の専用ダイヤルが設けられています。

  労災保険追加給付問い合わせ専用ダイヤル 0120-952-824

 

【関連ホームページ】

毎月勤労統計調査に係る雇用保険、労災保険等の追加給付について(厚生労働省ホームページ)

◇労災保険を受給中・受給されていた方へ(厚生労働省ホームページ)

◇労災保険の給付に関する対応指針(厚生労働省ホームページ)

◇労働者災害補償保険の追加給付に関するQ&A(厚生労働省ホームページ)

(平成31年1月17日作成)

兼業・副業されている方の労災認定改正のポイント-複数業務要因災害の新設

 兼業や副業など複数の会社で働いている労働者の方が労働災害にあわれたときに、働いているすべての会社の賃金額をもとに保険給付が行われる可能性が法改正により認められることになりました。

 下記では、労働者災害補償保険法改正(2020年9月1日施行)のポイントをまとめています。

 

1.法改正前の対応

 法改正前は、複数の会社で働いている労働者の方に、例えば精神障害が発症した場合、各会社での業務上の負荷(労働時間やストレスなど)を個別に評価し、いずれかが一定の基準を満たさなければ労災認定されませんでした。

 

2.法改正後の対応

 法改正後は、上記1のような場合、業務上の負荷(労働時間やストレスなど)を働いている個別会社ごとでなく、総合的に評価し、一定の基準を満たせば労災認定されるようになりました(「複数業務要因災害」の新設)。

 労災認定された場合、働いている複数の会社の賃金額を合算して、保険給付が行われるようになります。

 

3.改正の対象

(1)対象となる傷病等の発生日

 今回の改正の対象は、2020年9月1日以降に発生した傷病等とされています。

 

(2)対象となる傷病

 対象となる傷病は、脳・心臓疾患、精神障害などが想定されています。

 

(3)新設される保険給付

 新設される複数業務要因災害への保険給付は、下記の7つです。

①複数事業労働者療養給付

②複数事業労働者休養給付

③複数事業労働者障害給付

④複数事業労働者遺族給付

⑤複数事業労働者葬祭給付

⑥複数事業労働者傷病年金

⑦複数事業労働者介護給付

 

4.複数の会社で働いている労働者(「複数事業労働者」)とは

 複数業務要因災害の対象は、被災した時点で複数の事業場と労働契約関係にある労働者で、複数事業労働者と呼ばれます。具体的には下記のとおりです。

  • 被災した時点で事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者の方
  • 被災した時点で1つの会社と労働契約関係にあり、他の就業について特別加入している方
  • 被災した時点で複数の就業について特別加入している方

 

 被災した時点で複数の事業場と労働契約関係にない場合でも、その原因や要因となる事由が発生した時点で、複数の会社と労働契約関係にあった場合には、「複数事業労働者に類する者」として複数業務要因災害の対象になり得るとされています。

 

5.請求書式の変更、請求先

 今回の法改正に伴い、請求書式も変更されました。業務災害と複数業務要因災害は同時に請求できる書式になっています。

 請求先は、働いている会社を管轄する労働基準監督署が複数ある場合でも、いずれか1つの労働基準監督署に提出すれば大丈夫とされています。

 

6.法改正の意義

 法改正前には1社ごとの評価により労災認定の対象とならなかった方が、今回の法改正で複数の勤務先での状況を総合的に評価することで労災認定され救済される可能性が出てきます。さらに、労災認定された場合には、災害発生の要因となったすべての会社の賃金額を合算して保険給付がなされますので、二重の救済になるといえます。

 

○参考条文

第一条 労働者災害補償保険は、業務上の事由、事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。

第二条の二 労働者災害補償保険は、第一条の目的を達成するため、業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保険給付を行うほか、社会復帰促進等事業を行うことができる。

第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。

一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 複数事業労働者(これに類する者として厚生労働省令で定めるものを含む。以下同じ。)の二以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(以下「複数業務要因災害」という。)に関する保険給付(前号に掲げるものを除く。以下同じ。)
三 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
四 二次健康診断等給付

 

第二十条の二 第七条第一項第二号の複数業務要因災害に関する保険給付は、次に掲げる保険給付とする。

一 複数事業労働者療養給付
二 複数事業労働者休業給付
三 複数事業労働者障害給付
四 複数事業労働者遺族給付
五 複数事業労働者葬祭給付
六 複数事業労働者傷病年金
七 複数事業労働者介護給付

(令和6年3月1日更新)

【参考ホームページ】

◇複数事業労働者への労災保険給付(厚生労働省)

◇労災書式(厚生労働省)

【関連ページ】

◇労災保険制度の基礎知識

◇労災保険の後遺障害認定のポイント

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