労災保険の後遺障害認定のポイント

 労災保険の後遺障害認定は、自賠責保険と同じ認定基準(障害認定必携)に基づいて行われますが、自賠責保険と比べて特徴的な制度などがあります。ここでは、その主なものを挙げています。

 

1.制度面の特徴

(1)面接の実施

 自賠責保険の後遺障害認定は書面審査が原則で、面接は醜状障害がある場合に限られていると思います。

 これに対して労災保険では、労働基準監督署の担当者との面接、労災の医師(地方労災医員と言われます)との面接(検査等)が行われ、何回ものチェックが行われていると言えます。

 

(2)不服申立の回数制限と期限

 自賠責保険の後遺障害の異議申し立てには回数制限や期限は特にありません(時効はあります)。

 これに対して労災保険では、結果を知った日の翌日から一定の期間内に不服申し立てを行うことが必要で(審査請求は3ヶ月以内、再審査請求は2ヶ月以内)、回数も審査請求と再審査請求の2回に限られています(裁判は起こすことができます)。

 ただし、この期限までに全てのことを行うことは求められておらず、所定の形式(通常は所定の文書)で不服申し立ての意思を示せば、この期限はクリアされますので、色々な準備等を行う前に、最初に不服申立の意思を示しておくことが期限との関係では安心と思います。

 

(3)アフターケア制度、「再発」の認定

 自賠責保険などの損害賠償では一般に症状固定とされた後は、治療費の支払いはされません。

 これに対して労災保険では、一定の傷病(脊髄損傷、脳の器質性障害、RSDなど20傷病)に該当する場合には、所定の手続き(健康管理手帳交付申請書を所轄の労働局長に提出)をすることで、症状固定後も診察、保健指導、保健のための措置、検査の4つの措置を受けることができます。これはアフターケア制度と言われます。

 また、症状固定後に症状が明らかに悪化した場合には、「再発」が認められて療養(補償)給付が受けられることがあります。再発の認定を受けて治療を続けたものの、症状が悪化したまま回復の見込みが乏しいときには、再度障害認定が行われることもあります。再発が認められる要件として、次の3つすべてを満たすことが求められています。

 @症状の悪化が当初の業務上・通勤中による傷病と相当因果関係があると認められること

 A症状固定の時からみて、明らかに症状が悪化していること

 B療養を行えば、症状の改善が見込めると医学的に認められること

 

(4)診断書の書式

 障害補償給付(障害給付)申請のための診断書は、自賠責保険の後遺障害診断書よりもフリースペースのウエイトが大きい印象があります。医師は一般に忙しく、症状・所見などがそれなりに残っている場合でも最小限の記載しかしないこともあります。労基署では担当者や労災医師のチェックがあり、診断書の記載のとおりに認定されるとは限りませんが、できるだけ画像所見・検査所見、自覚症状等についてきちんと記載していただいた方が良い結果に結びつきやすいと思います(医師はきちんとお願いをしますと可能な範囲で追加記載等をしていただけることが多いです)。

 

2.等級認定面の特徴

(1)面接結果の等級への影響

 労災保険では、労基署の担当者との面接、労災の医師との面接(検査等)が等級認定に大きな影響を与えることがあります。

 この面接で症状等について述べたこと、労災医師による所見・検査結果(可動域角度など)等が、障害給付申請の診断書の内容より優先して認定されることがあります。

 このため、書面審査を採る自賠責保険とは異なる等級が認定されることがあります。

 

(2)認定基準に忠実な認定

 自賠責保険の後遺障害認定は労災保険の認定基準に準拠していますが、部分的に認定基準とは異なる運用等を行っているところがあります。

 これに対して労災保険では、認定基準に忠実に当てはめをして認定を行っている印象があります。例えば、自賠責保険と違いが出てくると考えられる例として、下記が挙げられます。 

 

@高次脳機能障害の認定

 高次脳機能障害の等級については、認定基準上、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、社会行動能力の4つの能力の喪失の程度(複数の能力に障害があるときには最も喪失の程度の重いもの)に着目して、高次脳機能障害の等級を認定することとし、最も程度が重い場合には1級、最も程度が軽い場合には14級とされています。

 労災保険では、医師への照会等の結果、脳の損傷が明らかで、複数の能力に障害がある場合でも、喪失の程度がすべて最も軽いところに回答があったような場合には、認定基準どおり、14級が認定されることがあります。

 これに対して自賠責保険では高次脳機能障害については独自に認定基準を設けています。上記のように、脳の損傷が明らかでこれにより記憶力の低下等の障害が少しでも残ったケースでは、9級以上の等級が認定されることが基本と思われます。 

 

A受傷部位の痛みの認定−12級の認定−

 受傷部位の痛みについては、認定基準上、「通常の労務に服することはできるが、時には強度の疼痛のため、ある程度差し支えがあるもの」が12級、「通常の労務に服することはできるが、受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの」が14級とされています。

 12級と14級の違いは、自賠責保険の場合には、症状を裏付ける客観的な所見が認められれば12級、自覚症状主体であれば14級と区別されていると思いますが、労災保険では、客観的な所見が認められる場合でも12級が認定されないことがあります。上記認定基準の文言を重視し、痛みの症状の程度がかなり重いことを前提としている印象です。症状の重さについては、面接時のご本人の訴えの内容や主治医の先生の診断書等の内容に基づいて判断していると思われます。このため、自賠責保険では12級が認定されても、労災保険では14級が認定されることがあります。

 

B受傷部位の痛みの認定−14級の認定−

 受傷部位の痛みについては、上記のとおり、受傷した部位に「ほとんど常時」疼痛を残す場合に14級として認定されることになっています。

 労災保険では、この「ほとんど常時」について、文字通り解釈して認定している印象です。このため、例えば、骨折した箇所が何もしなければ痛みはないが、普通の動作で痛みが出るような場合、労災保険では、「ほとんど常時」には該当しないという解釈をして、14級には該当しない(後遺障害に該当しない)という認定を行うことがあります。

 これに対して自賠責保険ではこのような例の場合には、「ほとんど常時」に含めて、14級と認定することがあると思います。

 

C加重の認定

 加重とは、認定基準上、事故で同一部位に新たに障害が加わった結果、等級表上、現存する障害が既存の障害より重くなった場合をいい、この「同一部位」とは「同一系列」の範囲内をいうとされています。

 例えば、首の痛みと腰の痛みの障害はどちらも神経系統の障害という同一系列になりますので、労災保険では、前の事故で首の痛みとして14級が認定されている場合、今回の事故で腰の痛みが残った場合、12級以上が認定されませんと加重には当たらない(腰の痛みについて後遺障害として認定されない)扱いがされると思います。

 これに対して自賠責保険では、受傷した部位が首と腰のように異なれば、同一系列の障害でも別々に後遺障害認定がされていると思います。

 

(平成27年8月12日作成)

 

 

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