交通事故でむち打ち症(頚椎捻挫)になり、長い間治療を続けても良くならないため、後遺障害の請求をしたところ、自賠責保険の後遺障害には該当しない旨の回答文書が届くことがあります。
下記では、むち打ち症(頚椎捻挫)の後遺障害には該当しないと判断される場合の典型的な回答文書について分析しています。
1.典型的な回答文書の例
<結論> 自賠責保険(共済)における後遺障害には該当しないものと判断します。
<理由> 頚椎捻挫後の頚部痛については、提出の頚部画像上、本件事故による骨折や脱臼等の明らかな外傷性の異常所見は認められず、また、後遺障害診断書上、自覚症状を裏付ける客観的な医学的所見に乏しいことに加え、その他症状経過、治療状況等も勘案した結果、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難いことから、自賠責保険(共済)における後遺障害には該当しないものと判断します。 また、頚椎部の運動障害については、前記画像所見のとおり、その原因となる骨折、脱臼等は認められないことから、自賠責保険(共済)における後遺障害には該当しないものと判断します。 |
2.回答文書の分析
(1)「提出の頚部画像上、本件事故による骨折や脱臼等の明らかな外傷性の異常所見は認められず、また、後遺障害診断書上、自覚症状を裏付ける客観的な医学的所見に乏しい」の部分について |
回答文書の「理由」の部分は、最初に、自覚症状を裏付ける客観的な医学的所見が認められるか否かについて記されるのが一般的です。画像から骨折や脱臼の外傷性の異常所見の有無がまず確認され、これらの所見がなくても、MRIで脊髄や神経根への圧迫所見など「自覚症状を裏付ける客観的な医学的所見」が認められる場合には、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)など、12級以上の等級が認定される可能性が出てくることになります。
しかし、「自覚症状を裏付ける客観的な医学的所見」が提出の診断書や画像などから認められない場合には、12級以上の等級には該当しないということをここでは記しています。
(2)「その他症状経過、治療状況等も勘案した結果」の部分について |
この部分は、「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)に該当するかどうかの検討結果になります。
「症状経過」は、主に受傷状況と診断書・診療報酬明細書の内容等から、どのような症状がいつ頃出現したのか、症状は良くなっているのか途中からはあまり変わらないのか、今後の症状の見通しはどうなのか等が検討されると思います。
「治療状況」は、入院の有無、治療期間、通院状況(通院日数、頻度等)、診断書・診療報酬明細書の内容(治療内容や治療効果等)等から、症状がどの程度の重さで推移していたか等が検討されると思います。
(3)「将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難い」の部分について |
自賠責保険の後遺障害と認定されるには、「将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難い」といえることが必要ですが、自賠責保険の後遺障害に該当しないという回答のほとんどが、この要件を満たさないと判断されている印象です。この判断は、主に上記(1)と(2)の検討に基づいて行われると思います。
具体的には、上記(1)で客観的な外傷性の異常所見が認められないとしても、画像上ヘルニア等の所見が認められるかどうか、上記(2)で交通事故のとき強い衝撃を受け、一定期間適切に通院・治療を続けてきたものの症状がなかなかよくならず、医師も後遺症として残ってしまうことを認めているかどうかが主に検討されると思います。
(4)「頚椎部の運動障害については、前記画像所見のとおり、その原因となる骨折、脱臼等は認められない」の部分について |
むち打ち症では首の動きに制限が出ることがありますが、頚椎部の運動障害としてではなく、首の痛みの症状(神経症状)の中に含めて評価されると思います。
頚椎部の運動障害は、自賠責保険の後遺障害認定で準拠している労災保険の認定基準上、8級以上の高い等級が定められていますので、骨折や脱臼など客観的な医学的所見の存在が求められてきます。
3.留意点
自賠責保険の回答文書の内容を理解することは、異議申立を行う際とても重要になります。異議申立では、最初の回答文書の内容を踏まえて対応していくことが必要だからです。
回答文書は理解が難しいことがありますので、そのような場合は一度専門家に確認していただくことをお勧めします。
以上
(令和元年11月12日作成)
【関連情報】
◇むち打ち等による痛み・しびれ(軽度神経症状)の等級認定のポイント
◇むち打ち症(頚椎捻挫)の後遺症異議申立で申し立てる症状について