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 労災保険の後遺障害認定は、労働基準監督署(労基署)において、障害等級認定基準に基づいて行われています。自賠責保険もこの認定基準に準拠して後遺障害認定を行っていますが、労災保険には自賠責保険とは異なる特徴的な制度や取り扱いがみられます。

 ここでは、労災保険の後遺障害認定のポイントや特徴についてまとめています。

 

1. 労災保険の後遺障害認定手続のポイント

 労基署に後遺障害請求を行った後に労基署で行われる後遺障害認定業務の概要は、下記のとおりです。

 

(1)主治医意見書等情報収集

 後遺障害等級認定に必要な情報収集が行われます。高次脳機能障害、脊髄障害、非器質性精神障害などの障害では、各障害専用の意見書の用紙を主治医の先生に送り、具体的な症状・所見などの情報を収集します。 

 

(2)請求人の意見聴取

 請求人の意見聴取は一般に「障害の状態に関する申立書」という文書で行われます。この申立書に記載する回答内容はとても重要になります。

 

(3)面接調査

 労基署から来署の依頼が文書でありますので、指定された日時に指定された物(画像や印鑑など)を持参し、労基署に出向きます。労災指定医(地方労災医員)が症状などを確認し、各種検査(反射・筋力・知覚・可動域角度など)を行います。その後、労災指定医は意見書を作成します。

 

(4)専門医意見収集

 上記の調査では等級認定が困難な場合、必要に応じて専門医に意見聴取が行われます。

 

(5)障害等級認定

 上記(1)〜(4)に基づいて後遺障害等級が認定されます。

 

2. 労災保険の後遺障害認定制度の特徴

(1)面接の実施

 自賠責保険の後遺障害認定は、書面による審査が原則とされており、面接が実施されるのは醜状障害がある場合に限られています。

 これに対して労災保険では、労基署の担当者とのやりとりのほか、労基署に出向いて労災指定医(地方労災医員)との面接が行われるのが原則とされています。この面接では、自覚症状と他覚所見(神経学的検査、関節可動域の測定)の確認などが行われます。

 

(2)不服申立の期限と回数制限

 自賠責保険では、後遺障害認定の異議申し立てを行う場合に、認定結果を知ってから3ヶ月以内といった短い期限や回数の制限は特にありません。

 これに対して労災保険の認定に対する不服申立は、障害等級の認定結果を知った日の翌日から一定の期間内(審査請求は3ヶ月以内、再審査請求は2ヶ月以内)に行う必要があることが法律で求められており、回数も審査請求と再審査請求の2回に限られています。

 ただ、この期限内にすべてのことを行うことは求められておらず、所定の形式(通常は所定の文書)で不服申立を行うことの意思を示せば、この期限はクリアされます。このため、いろいろ準備をする前に、まずは不服申し立ての意思を示しておくことが安心といえます。

 

(3)症状固定後の対応−アフターケア制度と再発認定−

 自賠責保険などの損害賠償では、原則として症状固定とされた後に治療費や休業補償の支払いはなされません。

 これに対して労災保険では、一定の傷病(脊髄損傷、脳の器質性障害、RSDなど20傷病)に該当する場合には、所定の手続き(健康管理手帳交付申請書を所轄の労働局長に提出)をとることで、症状固定とされた後に、①診察、②保健指導、③保健のための措置、④検査の4つの措置を受けることができます。これは「アフターケア制度」といわれます。

 また、症状固定とされた後に症状が明らかに悪化した場合には、労基署に所定の手続きをとることで、「再発」が認められて療養(補償)給付等の給付が再び受けられることがあります。さらに、再発の認定を受けて治療を続けたものの、症状が悪化したまま回復の見込みが乏しいときには、再度症状固定とされ、障害(補償)給付の請求に進み後遺障害認定が行われることもあります。

 「再発」が認められるための要件として、次の3つすべてを満たすことが求められています。

①症状の悪化が当初の業務上・通勤中による傷病と相当因果関係があると認められること

②症状固定の時からみて、明らかに症状が悪化していること

③療養を行えば、症状の改善が見込めると医学的に認められること

 

(4)診断書の書式

 障害補償給付(障害給付)請求のための所定の診断書は、自賠責保険の後遺障害診断書のように部位ごとに細かく分かれておらず、比較的医師が自由に記載しやすい書式といえます。このため、診断書に最小限の記載しかされていないケースも見られます。この場合、労基署において担当者や医師(地方労災医員)が審査する際に、症状が実際よりも軽いと受けとられてしまうおそれがあります。

 このため、できるだけ画像所見・検査所見・自覚症状等について、過不足なく記載していただくことが適切な等級認定に結びつきやすいといえます。医師は事実に反しない範囲で追加記載や再検査等をしていただけることが多いです。

 

3.労災保険の後遺障害認定実務の特徴

(1)面接結果の等級への影響

 労災保険では、労基署の担当者とのやりとりや労災医師(地方労災医員)の面接が後遺障害認定に大きな影響を与えることがある印象を受けます。

 この面接で被害者の方が症状等について述べたこと、労災医師による所見・検査結果(可動域角度など)等が、主治医の先生の作成した障害補償給付請求の診断書の内容よりも優先して認定されることがありますので、面接等の対応には注意が必要です。

 労災保険ではこの面接結果が障害等級に影響してきますので、自賠責保険とは異なる後遺障害等級が認定されることが珍しくありません。

 

(2)認定基準に忠実な認定

 自賠責保険の後遺障害認定は労災保険の認定基準に準拠していますが、部分的に認定基準の内容とは異なる運用等を行っているところがあります。

 これに対して労災保険では、認定基準に忠実に当てはめて後遺障害認定を行っている印象があります。例えば、自賠責保険と認定結果に違いが出てくる例として、下記が挙げられます。 

①高次脳機能障害の認定

 高次脳機能障害の等級については、認定基準上、①意思疎通能力、②問題解決能力、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力の4つの能力の喪失の程度(これら4つのうち複数の能力に障害があるときには最も喪失の程度の重いもの)に着目して、高次脳機能障害の等級を認定することされており、最も重い場合の等級は1級、最も軽い場合の等級は14級とされています。

 労災保険では、主治医の先生への文書照会等の結果、脳の損傷が明らかで、複数の能力に障害がある場合でも、喪失の程度がすべて最も軽いところに回答された場合には、認定基準どおり、14級が認定されるのが一般的と考えられます。

 これに対して自賠責保険では高次脳機能障害については独自に認定基準を設けており、上記のように、脳の損傷が明らかでこれにより記憶力の低下等の障害が少しでも残ったケースでは、9級以上の等級を認定することが基本的な対応と思われます。 

 

②受傷部位の痛みの認定−12級の認定−

 受傷部位の痛みについては、認定基準上、「通常の労務に服することはできるが、時には強度の疼痛のため、ある程度差し支えがあるもの」が12級、「通常の労務に服することはできるが、受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの」が14級とされています。

 この12級と14級の違いについて、自賠責保険の実務では、自覚症状を裏付ける客観的な所見が認めらるときは12級、自覚症状が主体であるときは14級と区別されていると思います。一方で労災保険の実務では、仮に客観的な所見が認めらても12級が認定されないことがあります。労災保険では、上記認定基準の文言を重視し、痛みの症状の程度がかなり重いことを前提としている印象があります。この症状の重さについては、面接のときの被害者の方の訴えの内容や主治医の先生の診断書等の内容も参考にしながら判断していることが予想されます。このため、自賠責保険では12級が認定されても、労災保険では14級が認定されることもあります。

 

③受傷部位の痛みの認定−14級の認定−

 受傷部位の痛みについては、上記のとおり、受傷した部位に「ほとんど常時」疼痛を残す場合に14級として認定されることとされています。

 労災保険では、この「ほとんど常時」について、文字どおり解釈して認定している印象です。このため、例えば、骨折した箇所が何もしなければ痛みはないものの、普通の動作で痛みが出るような場合、労災保険では「ほとんど常時」には該当しないという解釈をして、14級には該当しない(後遺障害に該当しない)という認定を行うことがあります。

 これに対して自賠責保険ではこのような例の場合には、「ほとんど常時」に含めて、14級と認定することがあります。

 

④加重の認定

 加重とは、認定基準上、事故で同一部位に新たに障害が加わった結果、等級表上、現存する障害が既存の障害より重くなった場合をいい、この「同一部位」とは「同一系列」の範囲内をいうこととされています。

 このため、労災保険では例えば、過去の事故で首の痛みについて後遺障害14級が認定されていて、今回の事故で腰の痛みが残った場合、後遺障害12級以上が認定されないと加重には当たらない(腰の痛みについて後遺障害として認定されない)という取り扱いがなされると思います。これは、現存する首の痛みと既存の腰の痛みのどちらの障害も、「神経系統の障害」という同一系列に属することになり、この場合、既存の14級より等級表上重い等級(12級以上)に該当することが求められるためです。

 これに対して自賠責保険の実務では、受傷した部位が首と腰のように異なれば、同一系列の障害でも加重とは取り扱わず、別々に後遺障害認定がなされていると思います。

 

(3)初回請求の重要性

 労災保険の請求は、初回が特に重要になります。労災保険では、上記のとおり審査請求と再審査請求という2回の不服申立手続をとることができますが、いずれも難易度がかなり高いからです。

 自賠責保険の異議申立では、初回の認定が変更される割合が10%以上ありますが、労災保険では数%程度ですので、初回の請求で適切な認定を受けられるように準備することがとても大切になります。

 特に診断書の記載内容は、労基署に提出して検討された後に訂正をしても認められない可能性が高いです。関節可動域の測定結果が特に問題になることがありますが、診断書の記載内容に疑問がある場合は、労基署に提出する前に、担当医師や専門家等に相談することが安心と思われます。

 

4.労災保険の後遺障害認定事例

 ここでは、当事務所でサポートした事例の一部をご紹介します。

(1)初回請求 

脳梗塞後の高次脳機能障害について労災障害等級7級が認定された事例

脳挫傷等による記憶障害・てんかん等の高次脳機能障害等について労災障害等級9級が認定された事例

脳脊髄液減少症による高次脳機能障害などについて労災障害等級12級が認定された事例

頚髄損傷による四肢痺れ等について労災障害等級9級が認定された事例

頚髄損傷による四肢痺れ等について労災保険で再発が認められた事例

前腕不全切断後の手関節・手指関節可動域制限などについて労災障害等級6級が認定された事例

中指屈筋腱断裂後の痛みについて労災障害等級14級が認定された事例

左股関節・左膝関節の機能障害等について労災障害等級8級が認定された事例

右膝内側側副靭帯損傷・右膝内側半月板損傷後の右膝機能障害・痛み等について労災障害等級10級が認定された事例

右膝半月板損傷・前十字靭帯損傷後の痛みについて労災障害等級12級が認定された事例

 

(2)不服申立

外傷性脳損傷による高次脳機能障害・抑うつ・てんかん等について労災障害等級12級から7級に変更された事例(審査請求)

脳挫傷による物忘れ・てんかん等の高次脳機能障害について労災障害等級14級から9級に変更された事例(審査請求)

脳挫傷・外傷性くも膜下出血等による高次脳機能障害・めまい・嗅覚障害等について労災障害等級11級から9級に変更された事例

下肢デグロービング損傷後の足関節可動域制限・抑うつ等について労災障害等級7級に変更された事例(審査請求)

手関節TFCC損傷による痛みについて労災障害等級14級から12級に変更された事例(審査請求)

 

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