最近、業務中に暴行され負傷するというニュースを目にすることがあります。そこで下記では、このような場合の労災保険の取り扱いについてまとめました。
1.労災保険の取り扱い
労災保険では、業務中または通勤中に他人の故意によって暴行され負傷した場合、私的怨恨に基づいたり、自招行為によるなど明らかに業務に起因しないものを除いて、労災認定をする取り扱いをしています。
つまり、原則として労災認定がなされ、労災認定されないのは例外的な取り扱いとされています。
このため、被災者の方はまずは労働基準監督署に請求を行い、請求を受けた労働基準監督署は私的怨恨や自招行為などの例外的な事情がなかったか調査することになります。その結果、例外的事情が認められなければ、労災認定されることになります。
2.労災認定の判断ポイント
私的怨恨や自招行為に該当するかどうかは、必ずしも明確に判断できないことがあります。実際に裁判で争われた事例も多くあり、労働基準監督署でもこれらの裁判例で示された考え方を参考にしながら判断しています。
主な判断ポイントは下記のとおりです。
(1)私的怨恨
①加害者が悪感情を抱く原因となった個々の出来事と暴行に時間的な近さ(接着性)があるか
出来事から短期間で暴行に至っている場合は、私的怨恨が認められやすくなります。
②加害者の悪感情の原因となった出来事は、暴行に及ぶほどの内容・程度だったか
暴行に発展するような内容・程度の出来事は、私的怨恨が認められやすくなります。
③周囲の人はトラブルを客観的に認識していたか
周囲もトラブルの存在を認識していた場合、私的怨恨は認められやすくなります。
④当事者双方が互いに嫌悪の念を抱く状況であったか
双方が互いに嫌悪の念を抱く状況の場合、私的怨恨は認められやすくなります。
(2)自招行為
①被災者の発言は業務上必要な注意や指導であったか
業務上必要な注意や指導であれば、自招行為とは認められにくくなります。
②被災者が職務権限を超えるような業務上の指示を行い、加害者を刺激したといえるか
職務権限を超えた言動で加害者を刺激した場合、自招行為と認められやすくなります。
③暴行は業務に内在または随伴する危険が現実化したものといえるか
業務に通常伴う危険が現実化した場合、自招行為とは認められにくくなります。
(3)けんか行為
①被災者からも加害者に対して暴行を加えたか
被災者も暴行を加えていた場合、私的なけんか行為とみなされる可能性があり、労災とは認められにくくなります。
3.留意点
業務中や通勤中に暴行を受けた場合は、正当防衛の範囲を超えて相手に反撃しないことが重要です。また、可能であれば目撃者を確保し、状況を客観的に確認できる証拠を残しておくことも大切です。
また、業務に関する指示や注意であっても、このことを契機に暴行に発展することがあります。この場合でも、私的怨恨や自招行為とみなされないよう冷静に対応することが大切です。
以上
(令和8年7月6日更新)
【関連情報】
◇他人の故意に基づく暴行による負傷の取り扱いについて(厚生労働省ホームページ)